弾性ストッキングについて
弾性ストッキングは足を強く圧迫することで血液の滞留(うっ滞といいます)を防ぎ、血流をサポートする医療器具です。足首から膝、腿に向かって血流を押し上げるために、足首がもっとも圧迫圧が強く上部に行くにしたがって徐々に圧迫圧が緩むように加工されています。
むくみの防止、深部症脈血栓症予防、下肢静脈瘤治療、うっ滞性皮膚炎の治療などで使われますが、病態や、治療か予防かなどの目的によって適切な圧迫圧を医師が選択します。
下肢静脈瘤治療では、弾性ストッキングはあくまで保存的療法で、静脈瘤が治るわけではありません。着用をやめればまた症状が出ます。
硬化療法で血管を潰した際には、血管の圧迫のために弾性ストッキングを着用します。
医療用と市販のものの違い
むくみに効果的というキャッチコピーなどで圧迫ストッキング、着圧ソックスがドラッグストアやインターネットで売られています。すでに試したことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
市販のストッキングは圧迫圧が15mmHg以下の低圧で、それ以上の圧迫圧のものは医療機関での扱いとなります。
医療用弾性ストッキングは仕様によって価格幅はありますが、市販のものに比べるとかなり高価です。しかし、安定して高圧迫圧を実現するために特殊な編み方がされていて、足首から太ももまで段階的圧迫が可能になっています。
圧迫圧のバリエーションだけでなく、ハイソックスタイプ、ストッキングタイプ、パンストタイプなど、さまざまな形があります。つま先部分があるものないものというバリエーションもあります。それぞれにメリット・デメリットがあり、適切な効果を得るために、病態・目的に最適なストッキングを医師に選んでもらいます。
通常のストッキングよりもかなり圧迫圧が高いため、着用しにくいこともあります。また適切な効果を得るために正しい着用が必要です。最近は弾性ストッキングコンダクターという指導員を置いているクリニックなどもありますので、相談してみましょう。
使い方のポイント
弾性ストッキングは医師の指示のもと適切なものを選びましょう
圧迫圧や形など、弾性ストッキングには目的に応じてさまざまなバリエーションやサイズが用意されています。病態や目的にしたがって最適なストッキングを医師に選んでもらいましょう。素人判断で間違った選び方をすると充分な効果が得られないだけでなく、動脈の血行障害を持つ方が着用した場合、症状を悪化させるケースもあります。
弾性ストッキングははき続けることが大切
弾性ストッキングで下肢静脈瘤が治るわけではありませんが、着用で症状が改善し、進行を防止することが目的となります。したがって、弾性ストッキングははき続けることが大切です。
しかし、圧迫圧が高いため、非常にはきにくいことも事実です。はき続けやすくするための工夫もありますので、試してみてください。
いつもはいているストッキングの上から弾性ストッキングをはく
滑りがよくなって、いくぶんはきやすくなります。また、肌が弱い方の場合、かぶれなどを抑えることができます。
弱めの圧迫圧の弾性ストッキングを2枚重ねではく
圧迫圧の弱いストッキングははきやすく、2枚重ねることで1枚の1.7〜2倍程度以上の圧迫圧を得ることができます。
違和感を感じたら使用は中止しましょう
弾性ストッキングを着用してしびれや痛みを感じるようであればすぐに使用を中止しましょう。血行障害が起こっていたり、悪化したりしているおそれがあります。また、弾性ストッキングは蒸れやすく、かぶれを起こしたりすることがあります。
圧迫圧が弱くなったり、破損したら新しいものに替えましょう
実際に着用していれば圧迫圧は下がってきます。メーカーによって90回、180回の洗濯をしても圧迫圧が落ちないよう設計されているなどの特徴があるようですが、使用感として圧迫圧が落ちてきたと感じたら交換時です。1日おきに使用したケースで半年くらいが交換の目安です。
また、伝線したり破損したりした場合にも、必要な圧迫圧が得られなくなりますので交換しましょう。
医療用弾性ストッキングの禁忌と慎重な使用が必要なケース
弾性ストッキングを使用しないほうがいいケース、使用に当たって慎重を期す必要があるケースがあります。
動脈に血行障害がある
まず、動脈に血行障害を抱えている患者さんでは、血行障害を悪化させるリスクが高まるため、使用しないほうがいいといわれることがあります。
血行障害の症状がない方であっても、検査で動脈硬化が強く疑われる方の場合には圧迫療法はリスクが高いともいわれています。目安として足関節圧が65mmHgあるいは80mmHg未満、ABI(足関節血圧/上腕血圧比)が0.7あるいは0.6未満の患者さんでは圧迫療法を行わないほうがいいという意見もあります。
急性期の深部静脈血栓症
急性期の深部静脈血栓症で足の腫れが強いケースでは圧迫によって疼痛が増すことがあり、また、抗凝固療法を受けていない方の場合、肺塞栓症を起こすリスクも高まります。
糖尿病
糖尿病患者でも血行障害が起こりやすく、また神経障害のために発見が遅れがちになるため、慎重な使用が求められます。
うっ血性心不全
うっ血性心不全の患者さんは弾性ストッキングの着用で下肢からの血流が増えることで心臓の負担が高まるリスクがあります。
皮膚の急性炎症
炎症性疾患、化膿性疾患が皮膚にある場合、弾性ストッキングの着用で炎症が悪化することがあります。
高齢者などで弾性ストッキングの圧迫治療に理解が伴わないようなケースでは、ご家族の協力を得て、正しい着用ができているかどうか、適宜観察していただく必要があります。
医療用弾性ストッキングで注意すべき合併症
弾性ストッキングは着用するだけで血行改善が望める手軽な治療法ですが、弾性ストッキングによる圧迫療法には合併症のリスクがあることも知っておく必要があります。
弾性ストッキングの禁忌でも触れた動脈血行障害はとくに注意すべき合併症です。
着用の際にストッキングにシワやめくれ、食い込みや二重折れの部分があると、そこだけ圧迫圧が高くなってストッキングが駆血帯(採血の際に血管を浮かび上がらせるために腕に巻くゴムチューブ)のように働いて、静脈の血流を阻害して浮腫が生じることがあります(ターニケット効果)。さらに皮膚に発赤、炎症、かぶれが生じやすくなり、感染症にかかりやすくなります。
腓骨骨頭(膝のすぐ下の外側にある骨の出っ張り)が圧迫されることで、腓骨神経麻痺を起こすことがあります。脛の外側から足の甲にかけてしびれや痛みが走ります。歩くとしびれが強くなって歩けなくなることがあります。
近年では弾性ストッキングの着用による損傷については「医療関連機器圧迫創傷」としてとくにケアすべきものと考えられていますので、不具合が合った場合にはただちに医師に相談してください。